読書レビュー:『色の秘密―最新色彩学入門』

色の秘密―最新色彩学入門 (文春文庫PLUS)
 表紙が綺麗だったのと昔から色彩心理学には興味があったので購入したものの、はっきり言ってとんでも本の類でした。

もちろん、この本を読んで完全に時間をムダにしたというわけではありません。

 

例えば、コーヒーの中身が同じでもそのパッケージの色によって人々が感じる味が違うといったことや、青色の物体よりも赤色の物体の方が近くに見えるために、赤色の自動車は青色の自動車よりも事故にあいにくいといったことなどは初めて知ったことでした。そのため、この本から得るものが全くない、というわけでは決してありません。
 
しかしながら、本書には大きく二つの問題があると思います。
一つは、最新色彩心理学といっているにもかかわらず引用は新しいものでも1980年代の研究であることです。
  
もう一つの問題点は、色の効果の説明が納得のいくものではないことです。
例えば、「使うほどに若返るピンク」という節では、ピンクがもたらす効果について以下のように説明されています。
 
“実験では、女性がピンクのブラウスを着て、ピンクのカーテンの部屋で生活するようにしたら、容貌や体が若返り、人柄まで明るく愛らしく、目の覚めるような美人になったと報告されています。”
この説明で「なるほど!ピンクって最高だね!」なんて思う人がいたらそれはヤバイ。
 
この説明では、どこの誰がどんな実験をやったのかが全く分かりません。
「ピンクのブラウスを着て」とありますが、どれくらいの頻度でどれくらいの期間にわたってピンク色のブラウスを着た結果なのかがわからないのです。
 
また、この実験の結果を数値化したのかということも疑問に残ります。
容貌であれば何人かに写真を見せて何歳くらいに見えるかを聞いて測ったり、体内年齢は血液の流れなどを調べれば測定できるかもしれません。しかし、人柄の愛らしさというのはどうやって数値化して測定したのでしょうか?
 
このように実験がどのような手順で行われ、どんな結果が得られたのかが明確に書かれていないために、疑問点があまりにも多くでてきてしまい、眉つばものに感じて今います。
 
このピンクの説明以外にも、「白い部屋が美人をつくる」という節でもとんでも議論が展開されています。
 
“等身大が映せる姿見(鏡)を備えておくといい。白い壁と鏡は健康なナルシシズム・・・中略・・・を高揚する。女性はすべて自分の容姿に自己愛を持っている。自己愛が生ずると、本当の恋愛と同様に、趣味が高尚に、情緒が豊かに、見聞が新鮮に、性質がなごやかに、心身ともに一段と女らしくなる。”

 

これも明らかに納得のいかない説明です。女性はみな自分の容姿に自己愛を持っているというのも納得がいきませんし、それが高尚な趣味などにつながるというのも納得がいきません。
 
一時が万事このような説明でほとんどの部分は真剣に受け止める価値のない内容となっています。
 
総じて、この本は雑談のネタ探しのための本としてならいいかもしれませんが、色彩心理学をまじめに勉強しようと思っている人は買う必要が全くない本でしょう。