漫画レビュー:乃木坂太郎『幽麗塔』1~5巻


この『幽麗塔』というマンガは、元々は小説だったものをマンガとして書き直したもの。

 その原作は、アリス・ウィリアムソンの小説『灰色の女』を基にした黒岩涙香の翻案長編小説『幽霊塔』を、さらに江戸川乱歩が翻案したというやや複雑な経緯をもっている小説だ。

 舞台は、昭和29年(1954年)の神戸。
ニートだった主人公天野は、 かつて人殺しがあった「幽霊塔」と呼ばれる時計塔で、白い何者かに襲われ、死にそうになるが、謎の美少年“テツオ”に命を救われる。

そのテツオは、幽霊塔には財宝が隠されており、その財宝探しを手伝えば、金も名誉も手に入ると天野に告げ、ともに時計塔に隠された財宝を探そうと提案する。



主人公も、その提案に乗り、「幽霊塔」の調査に乗り出すが、そこでさらなる殺人事件が生じ、主人公とテツオはその容疑者として、警察から追われる立場になってしまう・・・


最近読んだマンガの中では断トツに面白いと思う。
今は5巻までしか出ておらず、最後がどうなるのかが気になって仕方がないので、原作の小説を買って読もうか検討しているくらいだ。

この面白さの源泉の1つは、三竦みのような関係にあると思う。
容疑者として追われる立場の主人公たちと、主人公を追う警察・検事グループ、また主人公が見つけ出そうとしている真犯人。

彼らがそれぞれの思惑を持ちながら、互いに互いを出し抜こうとする様は、単純な1対1の対立では出せない深みをもたらしている。

しかも、カルピスの原液を限界まで薄くしたような展開と揶揄されることがあるような、とあるジャンプ漫画にありがちな引き延ばしなどは一切なく、全ての話が無駄なく流れていき、しかも、それが実にスリリングである。

主人公自体は、キャラが立っているというわけでは必ずしもないが、その脇をかためる登場人物たちが一癖も二癖もあるような人物が多い。このことも、この漫画の展開を深みのあるものにしている。